『パターン、Wiki、XP』読書メモ (その3)』

『パターン、Wiki、XP』読書メモ、今回は第3部「Wiki」を読みます。一応これで最後のつもり。

前回まで

12章: HyperCardによるパターンブラウザ

ネットワークベースでないことを除けば、今のWikiにかなり近いシステムが実現できていたことになります (本文中には時期は明記されていませんが、1980年代後半?)

13章: WikiWikiWeb

  • 1994年、カニンガムは、WWW上にみんなで編集できるパターンブラウザを構築するために、WikiWikiWebと呼ぶシステムを開発した。
  • Wikiは、CamelCaseによるページ名 (WikiName)、リンク/逆リンクなど、HyperCard上のパターンブラウザと共通する機能を持っていた。
  • Wikiサイト上にある複数のページをグループ化する手段として、Wikiカテゴリと呼ぶページへのリンク/逆リンクが用いられた。Wikiカテゴリ自身も通常のWikiページとして実現される。

個人的に今まで使ったことのあるWikiエンジンでは逆リンク機能は見た記憶がありませんが、かなり強力そうな印象。

14章: Wikiモードによるコミュニケーションパターン

  • HyperCard上のパターンブラウザに対するWikiの最大の違いはネットワーク接続であることから、コミュニケーションツールとしての活用が進んだ。
  • Wiki上でページを記述する方法のパターンと、議論を進めるためのパターンを指して、コミュニケーションパターンと呼ぶ。
  • Wikiのコミュニケーションパターンの中心となる概念は、Wikiページの状態/使用目的を示すWikiモードである。基本となるWikiモードは、スレッドモード (主観的な意見の集約) とドキュメントモード (客観的な記述の集約) の2種類。
  • 1つのページについて、スレッドモード→ハイブリッドモード→ドキュメントモードというライフサイクルが想定されていたが、実際には利用者の意見の相違によりドキュメントモードへの遷移は困難だった。多様な意見を取りまとめる高度な判断力・コミュニケーション力を持った人物は、「Wikiマスター」と呼ばれて称賛された。

Wikiマスターは、最近のソーシャルメディアにおいてファシリテーターと呼ばれる役割に相当すると理解しました。

15章: Wiki設計原則

  • カニンガムによるWiki設計原則の文書が存在し、11個の設計原則が述べられている。これらはアレグザンダーによる6つの原理と深い関係がある。
  • さらに、同一の祖先を持つXPのプラクティスとWiki設計原則の間にも多くの共通点がある。
  • Wikiの本質の1つとして、参加者間の合意によりコミュニケーションのルールを作り上げていくことにある。

参加者間の明確な合意が期待できない、例えばTwitterのような空間で、同じような原則が適用できるかどうかという点に興味を持ちました。

16章: Wikiエンジン

  • カニンガムによるWikiWikiWebのソースは、クヌースの「文芸的プログラミング」の手法を用いて、ドキュメントとコードが一体化された形でWikiサイト (WikiBase) 上に公開された。
  • WikiBaseを元に様々なWikiエンジンが開発され、それらを用いたWikiサイトが構築された。

17章: Wikipedia

  • Wikipediaの前身となるプロジェクトとしてNupediaがあったが、執筆者は博士号を持っていることが条件であることと、厳格な査読プロセスを採用していたことから、執筆者はあまり集まらず、コンテンツは充実しなかった。
  • Nupediaの失敗を受け、Wikiベースの百科事典編集プロジェクトWikipediaが開始された。
  • C2 Wikiとの機能上の相違点として、ドキュメントモードとスレッドモードを分離することで、一般の利用者には百科事典の項目しか見えないようにするなど、重要なルールを機能として実装していることがある。

18章: Wikiの現在

さまざまな領域に特化したWikiエンジンの例

感想

アレグザンダーの思想の中心は「無名の質」というキーワードで、本書中では「古い都市の調和した街並が備える生き生きとした建物や町が持つ特性」と説明されています。なんとなく感覚的に分かる気はするのですが、どうとでも解釈できるマジックワードという気も一方ではしています。

現在、Wikiに限らず、ブログ、ソーシャルブックマークTwitterなど、多数の利用者が寄与することによって価値を持つようなサービスが多数存在しています。おそらくはそれらのサービスについてもアレグザンダーの6つの原理が (意図的でないとしても) 適用されていると見ることができるでしょう。今あるサービスや今後登場するサービスをどう活用するか、その価値をどう判断するかにおいて、これらの原理は重要な切り口になるのではないでしょうか。